相談女


Pocket

「悩んでいる女性」の写真[モデル:Lala]

ホールの業務をするようになると、ホステスと関わることが
格段に増えた。

休憩時間に雑談をしたり、何か用事を頼まれたり、
愚痴や文句を聞いたり、ザックリ言えばサポートすることが増えた。

そうなってくると、一人ひとりのホステスの性格とか、
誰と誰が仲が良くて、誰と誰が仲が悪いとか、
まあ、ドロドロとした部分と関わってくるようになった。

これが本当に苦痛で仕方がなかった。

元々、人と関わるのが苦手で何を話したらいいかも分からず、
「はぁ・・」とか「わかりました」くらいしか言えなかった。

この頃になって、ようやく、初めて最初にママと交わした三つの約束が、

実は物凄く守るのが難しいことだと思うようになっていた。

ホステスと関わっていくうちに、日に日に愚痴や文句、

突っ込んだ恋愛にまつわる話を聞かされるようになっていった。

困った私は、曖昧な返事をしながらなんとかやり過ごそうとした。

「他人の異性と金に関する相談は聞かない」という、ママとの約束があったからだ。

しかし、そうはいっても、対人スキルが極めて低かったから、
穏便にやり過ごすなんてことは出来なかった。

すると当然、ホステス達から不満が出るようになった。
「イチは、全然話を聞いてくれない」と。

まず、マネージャーに叱られた。

「ホステスたちの愚痴や悩みを聞くのも、イチの仕事だろうが!」

「いえ・・ママとの約束があって・・」
そう答えようとするも、おっ被せて怒鳴られた。

「相談には乗るな!だけど話はちゃんと聞いてやれ!」

マネージャーの言っている意味が分からなかった。

思い余って、ママに相談することにした。

すると、ママは笑いながら

「約束の意味が判ってきたみたいね。ちょっと考えてごらん?」

と言うだけだった。

もう、どうしたら良いか分からなかった。
毎日が針の筵になった。

ホステスと顔を合わせれば、愚痴や文句を聞かされて、

何とかしてくれと言われる。

もちろん、仕事がらみの事であれば、

マネージャーなりママなりに言えば済むことだった。

だが、困ったのは好きだの嫌いだの恋愛がらみの相談だった。
そういった相談事をしてくるホステスは何人かいた。

ホステスのKさんが、特にその手の話がしつこかった。

ある日、店が終わってからゆっくりと話を聞いて欲しいと

休憩中のKさんに言われた時、同じく休憩していたNさんがいきなり怒り出した。


「K!あんたいい加減にしな!そういうのはね自分で決めるんだよ!

人を巻き込んでんじゃないよ!!」


Nさんのすごい剣幕に、Kさんは「N姉・・すみません」といって部屋を出ていった。

その後が、本当に怖かった。

鬼の形相のNさんは、足で蹴るようにドアを閉めると、
私に向かって怒鳴るように叱ってきた。

「イチ!相談に乗るなって言ってんだろ!何で分かんねえんだよ!」


「はい」そう答えるのが精いっぱいだった。

「アンタ!彼女いるの?」急にNさんは聞いてきた。

「いえ、そういうのは興味ないんで」

おずおずと答えた。

「あ~そう、じゃあ、女の汚い部分を教えてやる!

あのねぇ、ああいうKみたいな相談女はねぇ、大体自分で答えを決めてんの!」

「周りがアドバイスしようが何しようが、アンタがどうしようが、関係ないの。

自分の望む答えを言ってくれる人が現れるまで、延々と誰かに相談するんだよ!」

Nさんの話は理解できなかった。

「なんでそんな面倒な事するんですか?自分で答えがあるなら、

相談しても意味ないじゃないですか?」
思わずNさんに口答えした。

「だからタチが悪いんだよ!相談女は!人を振り回して遊んでんだよ!

失敗したときに人のせいにしたいんだよ!」

「あんたのアドバイスで失敗した!どうしてくれる!」って

絶対言ってくるよ!あの手の類の女は!」

Nさんの怒りは収まらなかった。
「イチ!そうなったら、あんた責任とれるの?」

「取れません・・」

「それが狙いなんだよ!イチの罪悪感を利用して、

もっと色々な要求をしてくるよ!ああいうタイプは!」

多分、時間にしたら5分とか10分くらいだっと思う。

だが、とても長い時間に思える程、延々とNさんは話してくれた。
不意にドアがノックされて、マネージャーが入ってきた。

「N、取り込んでるとこ悪いけど、指名だよ」

Nさんは、フ~っと太い息を吐くと黙って部屋を出ていった。

「お疲れ様・・」

そういってマネージャーにティッシュを渡された。

いつの間にか泣いていた。


「男はよぉ、馬鹿だからさ、Kみたいな女は好きなんだよ」
「見た目も可愛いしな、守ってやりたいって感じだろ?」

「Kに限らずよ、綺麗なねーちゃんの話を聞くとさぁ、

何とかしてやろうって、男は考えがちなんだよなぁ」

「でもな、付き合うんだったら、見た目じゃなくて、

Nみたいな女の方が絶対良いと思うよ。」


何時ものマネージャーとは思えない程、優しかった。


「俺は最初に言っただろ?相談には乗るな、でも話はちゃんと聞けって」

「もう、これでわかったろ?テメーで何とかしようって思ったら、

それは相談になってしまう。線引きしなきゃ駄目だ、みんなそれで失敗すんだよ」

「話はちゃんと聞いてやれ、でも聞くだけだ。」

「大概の女は、話さえちゃんと聞いてやれば、それで気が済むんだよ」

「間違っても、意見なんかしちゃ駄目だ、お前の意見なんて、
相手は聞いてねえし、望んでねぇ」

「普通は、ああそうか、そうか、大変だったね、それで済むから」


「相手に意見を求めてくる奴は、大体は相談女だ、関わっちゃ駄目だ」



「うち等の世界は、相談女が多いからな」
「落ち着いたら、仕事あるし、戻って来いよ」


そう言って、マネージャーは出ていった。

その日は、あとはどうやって仕事をしたのか覚えていない。

だが、仕事が終わって帰るときに、マネージャーに呼び止められて
一緒にタクシーに乗った。


連れられて行った先は、マネージャーの行きつけの焼鳥屋だった。
入ると、そこにはNさんがいた。

ムスッとした表情で、ここに座れと言わんばかりに
テーブルを指先で叩いた。


勝手に色々と注文され、Nさんの「とりあえず乾杯!」の音頭で
マネージャーと私の3人で、色々と話をしてくれた。

不器用だし、ハッキリとした優しさを出す人ではなかったが、
これ以降も、Nさんには本当に色々と教えてもらった。

もちろん、マネージャーにも本当に色々とお世話になった。
これ以降、だんだんと周囲とコミュニケーションを図れるようになった。


この記事に関連する記事一覧

コメントフォーム

名前

メールアドレス

URL

コメント

CAPTCHA


トラックバックURL: 
管理人 琴峰 一歩      プロフィール

Revtank Outtakes

現在、アラフォーの年齢になった。

10代は、いじめや人間関係に悩み、
苦しみ続ける孤独な毎日だった。

20代では、不安定な経済力や仕事で苦労し、不安な毎日を過ごした。

30代に入り、無職も経験した。
本当に人生を変えたかった。

人生を変える為に、やりたい事、 挑戦したい事は沢山あった。

ただ、それに反比例して、
どうしようもなくお金が無かった。

だから、お金を使わずにできる事。

自分自身の考え方を変えた。

まず、悩み続けた不安定な経済力、雇用関係が変わった。

次に、苦手だった人付き合いが
嘘のように活発になった。

長い間、変わらなかった現実が
突然ガラリと変わった。

今は、新しい人生の夢に向かい、
挑んでいる。

そして、それは少しづつ実現中だ。

 

 

ページの先頭へ