結果からいえば、あっさりと採用された。
今から考えても、今と違って、すべてが緩い時代だったとはいえ、
よく採用してくれたと感謝している。
もちろん、最初は「子供は帰れ!」と怒鳴られた。
一番最初に怒鳴ってきたのは、フロアマネージャーだった。
見た目が完全にそっち系で、ドスの効いた声で、滅茶苦茶怖かった。
ビックリして、固まってしまい、帰りたいのに足が動かなかった。
「帰れって言ってるだろ!」の声に、オーナーが奥から出てきた。
「誰?何しに来たの?何か用があるの?」
オーナーの最初の言葉も覚えてる。
面接に来たこと、金が必要な事、理由は学校に行きたいから。
とにかく、そういった自分の事情を話したのを覚えている。
オーナーは、タバコを吸いながらウンウンと頷きながら、
話の途中で部屋を出ていってしまった。
しばらくすると、瓶コーラを持って戻ってきた。
「もうすぐ、この店のママが来るし、ママが良いって言えば良いよ」
そういって、瓶コーラを渡されて、飲んで待っててと言われた。
しばらくすると、何人かの人間と一緒に、ママがやってきた。
部屋に入ってくるなり、ジッと私の顔をしばらく凝視したあと、
開口一番言われた。
「三つの約束事が守れるなら、雇ってあげる。」
私はとっさに、「ハイ、守ります。」
約束事の内容なんて聞いても無いのに答えてしまった。
「じゃあ、約束してね。」
そういうと、真正面に座り、早口で一気にしゃべりだした。
「まず一つ目は、女の子に手を出さない事。店の中でも外でも。」
「二つ目は、お金に困ったら、私かオーナーに相談する事。
他の従業員やホステス、とにかく他の人には相談しない、いい?」
「三つめは、他人の異性とお金の相談。これ絶対に相談に乗っちゃダメ。」
「出来る?難しいと思うけど?大丈夫?」
ママはジッと私の顔を見ながら、何度もそう言ってきた。
「いい?破ったらその時点で首にするよ?できる?」
正直、楽勝だと思っていた。
簡単な約束だと、その時は高を括っていた。
「じゃあ、明日から夜の7時にここに来てくれる?
あとは、フロアマネージャーに色々聞いてね」
そういって、ママは部屋を出ていった。
入れ替わりにマネージャーが入ってきた。
「制服合わすし、おまえちょっとこっち来いよ!」
そう言って、私は更衣室へと連れていかれた。
「あのな、わかっていると思うけどよ、
くれぐれも店のホステスに手を出すんじゃねーぞ!」
「あと、女の話を一々真に受けて、余計なことに首突っ込むんじゃねーぞ」
「いいか?もし何かあっても、お前を守ってやれないしな!」
二階の更衣室に行く間、同じことを何度も言われた。
「ハイ、ママとの約束を守ります。」
私は素直に、さっきのママの話を思い出して、そう答えた。
だが、マネージャーは私の答えが不満だったのか、鼻で笑われた。
「あのな、お前な?簡単に答えてるけどな、今言ってもわかんねーか・・
相談に乗るなっていうのはな、まあその内わかるけどな・・」
全くこちらを見ずに、独り言のように呟きながら、マネージャはー
更衣室のロッカーをゴソゴソと引っ掻き回していた。
「とにかく!てめえで何とかしようなんて、絶対思うんじゃねー!
何かあったら、すぐにママに相談だ!良いな!」
そういうと、制服をバン!と叩きつけるように渡された。
その時は、そんなに難しい約束だと思わなかった。
むしろ、なんだ簡単じゃんくらいに思っていた。
何しろ、人と関わりたくないのに、そんな面倒ごめんだよと思った。
まさか、これが本当にしんどいことなんて、
その時は全くわからなかった。
こうして、昼は高校に通い、夜は水商売をするという
二重生活が始まった。
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